熱の影響を受けたワインはどうなるのでしょうか。最も酷い場合には、ボトルの内部のワインが熱により膨張し、液漏れをおこしてしまうほどです。これは見た目で不良品と分かります。しかし、液漏れを起こさない程度でも、熱の影響でワインの風味が損なわれることがあります。以下、熱の影響の度合いによって風味がどのようになるのかを見て行きましょう。
50%熱の影響を受けたワイン
生産者が造り出すワインの風味とは、全く異なった似て非なるものとなってしまいます。ラベルが本物でも中身は偽物と言われても仕方がないかもしれません。飲んだ瞬間に口の中を不快にするような味わいが広がります。
30%熱の影響を受けたワイン
完璧な状態のワインに比べ、香りに乏しく生命力を失ったワインとなってしまいます。口に入れた瞬間に果実味はすぐに消え、上あごを刺すようなエグ味と喉に引っかかるような苦味が後口に残ります。
本来ワインとは瑞々しい風味をもち、飲み込んだ後、口の中をウエットなしっとりとした状態にします。しかし熱の影響を受けたワインは口の中をドライにし心の底からもう一口飲みたいという欲求は残念ながら消えてしまいます。また、本来のワインの後口の風味が料理との相性(ワインとお料理との)を約束するものですが、熱の影響を受けてしまったワインは料理との相性は破壊されどんな高級なワインでも水代わりに飲むワインと同等の価値しかもたないでしょう。
20%熱の影響を受けたワイン
本来の完璧な状態のワインを飲んだことがない人にとっては、熱の影響を受けたかどうか判断するのは難しいでしょう。葡萄品種の特徴を表す香り(アロマ)や味わいは表現され、美味しく飲むことが出来ます。料理とのマリアージュも楽しむ事が出来ます。しかし、そこに欠けるのは繊細で抜けるような透明感のある香りと味わい全体の高いレベルでの調和です。完璧な状態のワインに触れた時の感動はそこにはありません。美味しく飲めますが心の底まで響くような感動を得ることは残念ながら出来ないでしょう。
もしも、20%熱を受けたワインと100%完璧なワインを比較したとします。2つのワインの風味の違いは明らかです。しかし、その違いの根拠について多くの人々はランク(格の違い)または、同一銘柄でも上級キュベ(ワイン) と考えるでしょう。温度管理が100%完璧であるか否かによってワインの風味がワンランクも異なってしまうということについて、実は、多くの人々が気がついていないのも事実です。
ワインを10年間長期間保存する場合に熱の影響を受けていると多くの場合、正常に熟成※1 することが出来ません。若い時期に熱の影響を受けたワインは熟成するとマディラ化※2 してしまう場合があります。完璧の場合での熟成ワインは複雑でより豊かな香りをもたらします。時としてそれは宇宙の深淵に引き込まれるような深い香りであったり、月明かりの下に深い森の中の小道を彷徨しているかのような神秘的な香りであったりします。それはまさに、ひとつの芸術品と出会った時の様な深い感動をもたらし、人生の中で忘れることの出来ない至福の時を人々に与えることでしょう。
※1
ビン詰め後、ワインは、保存に適した環境におかれることによってその風味は成長して行きます。それは、あたかも人の一生を見るように、若い時期は風味が固く閉ざされておりやがて力強く高い調和を保ったワインに成長します。この時期は、活力に富み人々に自らの存在を訴えかけるかのような時期です。 やがてワインの熟成は進み果物が木から自然に落ちるように力強さを失います。しかし、その反面、より繊細で口に含むと全く抵抗感のない上質なスープのようにスムーズに口の中を流れていきます。混然一体化した香りと味わいはこの世のものとは思えない風味を形づくり人々の心に深く刻み込まれます。
※2
マディラ化とはワインのボトルで熟成する過程でワインが酸化してしまうことを言います。